2026年5月26日火曜日

もしも空飛ぶバスで通勤する時代が来たら

朝、目覚ましの音で起きて、
カーテンを開ける。

そこに見えるのは、
いつもの道路ではなく、
空をゆっくり流れていくバスの影だった。

もしも空飛ぶバスで通勤する時代が来たら、
通勤という言葉の感じ方も、
少し変わるのかもしれない。

駅へ急ぐ人たちは、
地上のバス停ではなく、
ビルの屋上にある空の停留所へ向かう。

エレベーターで上がった先には、
朝の風が吹いていて、
遠くの街並みがまだ少し眠たそうに見える。

やがて、
低い音を響かせながら、
空飛ぶバスが近づいてくる。

飛行機ほど大げさではなく、
電車ほど速すぎるわけでもなく、
町の上をやさしく横切る乗り物。

ドアが開くと、
いつものように人が乗り込む。

スーツ姿の人。
眠そうな顔の人。
スマホを見ている人。
窓際の席を探す人。

未来の乗り物に乗っているのに、
中にいる人たちは、
案外、今とあまり変わらないのかもしれない。

バスが静かに浮かび上がる。

地上の信号が小さくなり、
交差点の渋滞も、
まるで模型のように見えてくる。

昨日までイライラしていた道も、
上から見ると、
少しだけかわいく思える。

窓の外には、
朝日に照らされたビル群。
川の上に伸びる橋。
屋上に並ぶ小さな庭。
遠くを飛ぶ別のバス。

通勤時間なのに、
少しだけ観光しているような気分になる。

たぶん最初の頃は、
みんな窓の外を見て、
写真を撮ったり、
誰かに話したりするのだと思う。

けれど、
それもやがて日常になる。

空を飛ぶことに慣れて、
雲の近くを走ることにも慣れて、
人はまた、
朝の眠気と仕事の予定に戻っていく。

それでも、
空飛ぶバスの通勤には、
少しだけ救いがある気がする。

満員電車の中で押されるかわりに、
窓の向こうに広い空が見える。

渋滞の列を眺めるかわりに、
雲の端が朝日に光っている。

今日も仕事か、と思う気持ちの横に、
今日も空を通って行くのか、
という小さな不思議がある。

人間はきっと、
どんな未来になっても、
慣れてしまう生き物なのだと思う。

空を飛ぶバスも、
AIが動かす街も、
ビルの上にある停留所も、
いつかは普通の景色になる。

けれど、
ふとした朝に窓の外を見て、
自分が空の上を通勤していることに気づいたら、
少しだけ心が軽くなるかもしれない。

未来は、
すごい技術だけでできているわけではない。

いつもの朝が、
ほんの少し違って見えること。

いつもの通勤に、
空の広さが混ざること。

それだけでも、
未来は少しやさしくなる。

もしも空飛ぶバスで通勤する時代が来たら、
人は空を飛びながら、
今日もいつもの職場へ向かう。

そしてたぶん、
少し眠そうな顔をしながら、
窓の外の雲を見て、
こう思うのだ。

昔の通勤は、
地面の上だけだったんだな、と。


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