夜の帰り道、ふとコンビニの明かりが見えた。
あの四角い光を見ると、少しだけ安心する。
おにぎりがある。
飲み物がある。
雑誌がある。
誰かのために残されたような、あたたかい明かりがある。
でも、もし未来のコンビニだったら、そこには何が売っているのだろう。
入口のドアは、もう自動ドアではないかもしれない。
人が近づく前に、その日の疲れや気分を読み取って、静かに開いてくれる。
「今日は少し疲れていますね」
そんな声が、店内のどこかから聞こえる。
レジには人がいない。
けれど、冷たい感じはしない。
AIの店員が、こちらを急かさず、ただそっと見守っている。
棚には、未来のおにぎりが並んでいる。
食べる人の体調に合わせて、塩分や栄養を変えてくれるおにぎり。
仕事で疲れた人には、少しやさしい味。
落ち込んだ人には、懐かしい味。
眠れない夜には、心が静かになる味。
飲み物の棚には、ただの水やお茶だけではなく、記憶に寄り添う飲み物がある。
子どものころの夏休みを思い出すソーダ。
誰かと歩いた帰り道の匂いがするコーヒー。
何も考えずに眠りたい夜のための、やわらかいミルク。
未来のコンビニには、物だけではなく、気持ちを整えるものが売っているのかもしれない。
雑誌コーナーには、紙の本が少しだけ残っている。
すべてが画面になった未来でも、ページをめくる音だけは消えずに残っている。
その隣には、「今日のあなたに必要な物語」と書かれた小さな棚がある。
選ぶのではなく、選ばれる本。
今の自分に必要な言葉だけが、静かに開かれる本。
少し奥へ行くと、不思議な商品が並んでいる。
なくした勇気を少しだけ戻す小さな飴。
明日の朝を少し軽くする靴下。
言いそびれた言葉を保存しておけるメモ帳。
誰にも見せない涙を、そっと受け止めてくれるハンカチ。
どれも大げさなものではない。
世界を変える商品ではない。
けれど、その日を越えるためには、必要なものばかりだ。
未来のコンビニは、きっと便利になる。
会計も速くなる。
配送も自動になる。
欲しいものは、店に入る前から準備されているかもしれない。
でも本当に未来らしいのは、そこではない気がする。
未来のコンビニには、忙しさの中で置き忘れたものが売っていてほしい。
少し休む時間。
自分を責めない夜。
誰かにやさしくされたような感覚。
明日もなんとか歩けそうだと思える、小さな灯り。
深夜の店内で、AI店員が静かに言う。
「今日は、これがよさそうです」
差し出されたのは、未来の新商品ではなく、温かいお茶と、小さな焼き菓子だった。
それだけで、少しだけ心がゆるむ。
未来になっても、人間はきっと、そんなに強くはならない。
疲れる日もある。
迷う夜もある。
何かを買うふりをして、本当は安心できる場所を探している日もある。
だから未来のコンビニには、最新の技術だけではなく、やさしさも並んでいてほしい。
棚のどこかに、誰かの明日を少し軽くするものが置かれている。
それを買って外に出ると、夜の道はさっきより少し明るく見える。
未来のコンビニには、何が売っているのだろう。
たぶんそこには、便利なものと一緒に、まだ人間に必要なぬくもりが売っている。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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